ブレイブストーリー - 宮部みゆき(2003)

映画しか知らずに原作読むとド肝抜かれる。自殺、心中、レイプ、NTR、DV、裁判…昼ドラ真っ青のドロドロ愛憎劇で草枯れる。とにかく亘の周りの大人全員くっそ胸糞悪い。特に親父と婆。亘も良い子過ぎてムカつく。男ならもっと必死で抵抗せんかい。…そんなこんなで現実にたっぷり絶望した亘は自分の運命を変える為、未知の世界(ヴィジョン)に旅立つワケだが、そうやってファンタジーとリアルの隔たりを綺麗に埋め立てる事で主人公の旅立ちに必然性持たせる。それがラノベやなろう系と一味違うところ。一章だけなら全部が亘の現実逃避の妄想とも取れる内容やからねこの話。

 

二章は一章のドロドロから一気に全年齢対象の王道ファンタジーに変わってその落差に初め肩透かしを食らった。

王道ファンタジーと言っても神話や海外の古典小説に影響を受けたというよりは、日本のRPGからの影響が強いんだろうなという雰囲気。これはヴィジョンという世界が旅人の想像力に影響を受け形を変えるという設定があるから納得感は強いが…まぁ単純に作者の趣向だろうな。そのおかげで小学生の主人公が英雄的活躍をするのもやはり納得感がある。その辺はなろう系の走りって感じがする。若干のSF要素と世界観の捉え方は.hackっぽくもある。

設定、ストーリーだけ取るとどっかで見た事ある感じでファンタジー小説としては平凡と言わざる負えない…。だが、そもそもこの作品のメインは現実世界。ワタルの旅が現実世界にどう影響を与えるかがこの作品の魅力なのであり…例えるなら脱衣麻雀のようなもので、ご褒美の為に麻雀頑張るのが本作におけるファンタジーパート。読者は主人公と同じ気持ちで次どうなるのかな〜とドキドキしながら読み進められる。それは宝玉を得る度に覚える新しい魔法であるとか…真実の扉で現実に戻れる時間であるとか…読者によって様々であろう。

面白かったのはやっぱ、嘆きの沼で親父そっくりの男と対峙するとこかなー。ここだけ富野作品みたいで草。ここまでやっちゃうんだってドン引きしたし、この辺は一章並にドロドロでホラーでした笑。ここで一気に暗くなって読むのやめたくなったけど仲間のお陰で無事ワタルくん成長してくれてよかった。めでたしめでたし(でもかなりビターエンドなんだなぁ…)。

 

不満点を挙げるとキャラの魅力があんま無いこと。パーティメンバーのキ・キーマは女神教信者のただのバカだし、ヒロインのミーナはオカンみたいに口うるさくて嫉妬深くて可愛げがない。加えて後半でワタルの成長に大きく貢献するハイランダーの女首長カッツは無理やり姉御感出そうとしてて何か空回り。

そもそもカッちゃんとかルゥ叔父さんとかキキーマみたいな体育会系の人間をすげぇ見下してるのが鼻につくし、カッツみたいなワイルド系のキャラも演じきれてないのよね。…ミーナとかワタルのマッマとか田中理香子みたいなくっせぇマンさんしか宮部みゆきの引き出しに無いんよねぇ。

なんと言っても一番罪深(ギルティー)なのは副主人公のミツルだよね。こいつ性格が糞過ぎてなんの魅力もないし何でワタルがあそこまで固執するのか最後まで分からん。ラストの懺悔のシーンとかくっそ寒かったわ。このキャラはからはイケメンであれば全て許される的な非モテ特有のルサンチマンをビンビンに感じるんだよね。

てゆーか、作中で異種族迫害が大きな問題になってるけど、この人(作者)総じて他人があんま好きじゃないよね。そのせいで折角のヴィジョンという世界が薄味に感じるのがイケナイ。

…唯一、良かったのが隠しヒロイン兼ラスボス枠のオババ。このキャラだけマン臭があんまキツくなかったし萌え要素を感じた。こいつがヒロインでよかったよ。てゆーかもっと出番あって良かった。