LIFE RECORDERS アルバムレビュー

久々に良いバンドに出逢えた。90年代中頃から2001年まで活動していた日本のロックバンド。90年代と言えばまだまだバンドブームも尾を引き業界も活気に満ちていた。一転、2000年に入ると世間的にはバンドは完全に終わっていた。その裏でバンプオブチキンとかアートスクールとかメディアとは一線を引いた連中が姿を現し、少しニッチな存在として中二病的需要を満たし始める。

そして、そのどちらにも加われなかったのがこのバンド。そういう奴らは腐るほどいただろうし、運がなけりゃ実力もないのだろうと高を括り世間では見向きもされない。そういう谷の時代が確かにあったと思う。しかし、このバンドはそういう連中の中でもちょっと不思議なくらい良い。

ちょっと暗いけど爽やかな印象のギターロックで、後にエモと呼ばれる音楽と重なる部分が多い。だがこのバンドはしっかり歌も忘れていない。その塩梅が実に面白い。こういうバンドって意外と日本に居ない。同世代のバンドよりはそれより下の下北系…もっと言うとそれに影響を受けてカジュアル化した現代のインディーバンドに近い印象を受ける。

しかし、何故この時代にこんな音楽性だったんだろう。ハスキンとかlovemenとかエモを感じさせるバンドは古くから居たわけだが、それは当時ライブハウスを中心に自然発生的に生まれ継承された物が大きいのだろう。初期ストレイテナーとかモロにエモいけど周りに指摘されるまでゲットアップキッズとか聞いたことなかったらしいし。恐らくこのバンドはそのようなシーンとも直接関わりがない。故に今聴いても新鮮に聴こえるというか最近のバンドっぽい印象を受けるのかななんて思う。てゆーか、こういうサビでコーラスが被さってくるみたいなのって元々誰なん?BURGER NUDSとかアートスクールもよくやるけど…。

 

Hang Out(1998)★★★★☆



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1stアルバム。コンセプトが謎なアートワークが不安を煽る。ブックレットを眺めてみてもメンバーは革ジャンだったりパーカーだったり変な柄のシャツだったりまるで方向性が定まっていない。音楽の方はしっかりしてるのが救いだ。

この頃はまだukロックの雰囲気もあったんだな。ボーカル高岡愼太郎作曲の楽曲は一貫してパンキッシュでエモな印象。歌詞は上京してきた自分たちの心情がそのまま歌われていて…不安5割、希望2割、郷愁3割って感じ。1stアルバムにしては早速後ろを振り返りすぎではないか(笑)。ロックバンドとしては圧倒的に地味で素朴な印象。このバンド濁し出す空気がエレカシに似てるんだよな。日本語に拘った歌詞と真っ直ぐな歌い方が似てんのかな。曲はコード主体でリフとかインパクトのあるフレーズはあまりないがメロディが良い。Aメロ、Bメロ、サビと丁寧に作られていて地味に聞こえるが聴き込む度に良くなる。

 

・キンモクサイ

UKロックのねちっこいグルーヴ。このバンドがUKっぽくやるとまんまポニーキャニオンくらいのエレカシになる。歌詞が全然カッコつけてないのが印象的。

・45

これもよくあるポップパンクだな。何となく前向きで、全体で見るとこういう曲の方が異端なんだよなぁ…。

・新しい季節

この爽やかな疾走感は正しくエモ。この曲がこのバンドの定番のスタイル。

・ぼくらは

パンクだけど半端な冴えない感じ。初々しくて良いんじゃない。

OASIS

タイトル通りのukロックかなと思ったけど、聴いてみるとそんなでも無い。切なげなパワーポップ。このバンドはメロディセンスが良いんだよなぁ。

・僕にだけ吹く風

デビューシングル。気合いが少し空回り気味で回りくどい感じ。何か無理矢理男らしくやってる感とサビのロマンティックなピアノが絡み合い謎に尾崎豊っぽい…。

・マシンガンスピーカー

リリシズムを淡々と歌い上げる系の曲。アウトロでシューゲ的なアプローチを聴けるのはセンスが良い。しかしギターの音が悪いのが残念。

・僕が生まれた空の星

ウィーザー風のテンションが上がったり下がったりするパワーポップ。このタイプの曲もこのバンドは偶にやる。ウィーザーは多分聞いてただろうな。それに思いっきり間の抜けてた歌詞が乗るのがいい。この時代ってもっと自意識過剰でナルシスティックだったと思うんだけど彼等はあまりにも無防備で時代を感じさせない。好きな曲です。

・アイ・ラブ・ユウヒ

激烈にダサいタイトルだけど凄く良い曲。こういう幸せなムードの曲は後にも先にもこの曲だけ…。

・初冬の太陽

彼等のエモ系の曲の中でも名曲の部類だね。疾走感があって爽やかででもほんのり暗い。孤独な闇が垣間見える。

 

東京の空(1999)★★★★★


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セカンドアルバム。サイズ的にはミニアルバム。東京の空というタイトルといい、メンバーがこちらを睨みつけるシンプルなジャケからもエレカシ臭が漂う(事務所も同じEPICソニー)。ファーストよりも洗練されたサウンドを獲得するも録音中?にドラマー原英寿が脱退してしまう。緩急の効いた内容と少し物足りない位のボリュームが丁度よく名刺代わりの1枚という感じ。

 

・東京の空

ミディアムバラードの名曲。ここまで素朴な楽曲(フォークと言ってもいいような)をアルバムの頭に持ってくるというのはロックバンドとして勇気がいると事だと思うが、このアルバムでは締めがイルカのなごり雪だったりして、その辺の感覚がぶっ壊れてると思う。まぁおかげで23年経った今でも十分なインパクトを残してくれている。

・TODAY

以前よりハードコアみが増したミディアムエモ。緩急の効いたリフが特徴。2番から入る大サビがかっこいい。渋くてかなり好きな曲。

・青春Ⅱ

シングル曲。得意の疾走エモ。ファーストの良い所を上手く残したな。シンプルに熱くなれる名曲。サビのアコギが立体感を演出しててナイス。なんか普通にいい曲過ぎてこれがいま残ってない事が不思議っていう気持ちになってくるんだよな。今みたいにインディが市民権を得た状況なら確実にヒットしただろうに…。勿体ないから突然少年とかにあげたらいいと思う。

・とうめいになりたい

この曲は彼らにとって新しいタイプの楽曲。ナイーヴな繊細さを前面に押し出したミディアムナンバー。機械的なドラミングが張り詰めた冬の冷たい空気感を演出し、エフェクティブなプレイに徹するリードギターは聞き手に想像を許す余白を残している。ライ麦畑でつかまえてに影響された歌詞は若者の焦燥感を歌う。ルートを追う直線的なベースといいいよいよアートスクールっぽい。

・11月

ギターの米田典久作曲。ボーカル高岡の楽曲よりパンク色が強い。周囲との軋轢、自分の中の葛藤を描く。意外とこういうバンドらしいテーマを高岡は扱わないがかなり様になっている。こういう分かりやすい歌を沢山作ってくれたらパンクバンドとして事務所は売りやすかっただろうなと思う。まぁそういうバンドは五万といるわけだが。

なごり雪

昭和の名曲のパンクカバーってあまりやりたくない…なんつーか黒歴史になりかねない地雷源なかんじするけど、このバンドの場合それが奇跡的に成功してる。かく言う自分もこのカバーでこのバンドにハマった。あまり我を出さず素っ裸で曲に向き合っている感じが好感を持てる。このアルバムで一貫している全然アレンジを加えないバンドサウンドが功を奏している。

 

海を見たいだけだった(1999)★★★★★


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東京の空の前に発売されたシングル。アルバム未収録の楽曲が3曲聞けるのでファンはマストだろう。

・海を見たいだけだった

ウィーザー風ののんびりした空気から一変、ロックに弾ける情緒不安定型パワーポップ。それを貫く伸びやかな歌唱に込められたメッセージは忙しく暮らす我々現代日本人にとって妙に説得力があるものだ。

地上の星

微妙にマイナーで気難しいコード進行を歌メロでポップに聞かせるセンスの良さが光る。

・君の復活へ

得意の疾走エモ。エモ系の彼らの楽曲でもこの曲が一番好きだ。『友達よーー』ってコーラスが最高。エモを態々日本語で聴く価値がここにあると思った。日本のエモを1曲あげろと言われたらこれから俺は迷わずこれを挙げるだろう。

 

LIFE RECORDERS(2001)★★★★★


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2年ぶりセルフタイトルを関するサードアルバム。このアルバムを最後にバンドは解散する。充実の内容でソングライティングの練達を感じる。内省的なアルバムで解散を控え歌うべき事など何も無い。だからこそ音楽の純度が増したというか…。凄くいいのに抜け殻みたいで少し悲しい。

 

・世界を抱きしめて

無駄を削ぎ落としたエモーショナルなリフからシリアスな空気が十分伝わってくる。サビのベースが気持ちいい。リフ物っぽさと歌物の両立がいい塩梅。制御されたやけっぱちな感じが非常にカッコイイ。

・時を止めて

少し翳りのあるメロディーとチープ・トリックみたいな弄れたギターが良いバランスの曲。2番のシンセチックなギターアレンジが効果的に空間を広げてくれてる。

・メロディーのなかに

こういう柔らかなギターポップも作れるのか。これだけ高いソングライティング能力があるのだからもっと評価されるべき。

・Here

敢えてメロディ展開を抑え、グランジライクに纏めあげる所にセンスを感じる。洗練されたアレンジにバンドの成長を感じる。

・PARADE

前作のとうめいになりたいに続く泡沫ギターポップナンバー。終始鳴り響くお花畑的なシーケンスがシューゲイザーとかドリームポップって感じ。完全にノーベンバーズとかユアゴールドマイピンクみたいなukプロジェクト周辺の音だよね。

・真冬

ツインギターの美しさを十二分に引き出した激エモなオルタナティブロック。ギター米田作曲で彼は多分bloodthirsty butchersが好きなんでしょう。結構あっさり終わるので5分くらいやっても良かったのにと思う。名曲。

・livinstone daisy

今作ではベースの三輪善夫も作曲に参加している。彼の曲はこれまでのエモテイストな曲を踏襲しながらも更にモダンな印象で纏まりが良く聴きやすい。アルバムの中で良いアクセントになっている。即戦力過ぎるだろ。

・もうひとつの太陽

ミディアムエモ。間奏のフレーズが幻想的でセクシー。このパートのおかげで飽きさせず深みを持たせる事に成功している。あまり突っ走らず噛み締めるようなメロディ。本作はそういう傾向。

・夕暮れ

三輪作曲。活動二十年目のエモバンドみたいな老練ささえ感じる。

・さよならだけを

最後のアルバムの最後の曲と言うだけあって、説得力のあるメロディー。いい曲なんだけどT-BOLANの離したくないを連想してしまう。シンプル故にバンドサウンドの味わい深さを堪能出来る。