レイモンド・カーヴァー - ぼくが電話をかけている場所

村上春樹訳。短編ばっかり書く人らしい。小説界のつげ義春みたいなもんか。読んだ印象としては現実逃避型のアウトサイダーでありつつリアリストでもあるって感じやな。全ての登場人物…特に男性は大人になりきれてない…永遠になることは無いという考えの持ち主であろう事が推察できる。まぁ女性は子供を産むからその違いはあるよな。ミソジニストでありフェミニストな対極の感性が同居してるような人。色々素直な人。

基本全部の話が登場人物の誰かの視点で語られる。読みにくいような読みやすいような独特の文体。簡単な話だけどどれも印象に残る。誰にでもありそうな話で、でもそこで芽ばえる不思議な感情をここまで上手く捉える事は中々出来ないだろう。普通なら誰も気に停めない…例えるなら朝起きたら忘れる夢のようなそういう感覚を大事にしてる。 

 

 

・ダンスしないか?

これは一番コンパクトで不思議な質感を持って纏まってる。唯一、誰の視点でもない第三者の視点っていうのかな?何となく危険な匂いがする話。街にいるやべーオッサンに絡んでみたみたいな。何処かレモンの匂い嗅いだようなツンとくる爽やかさが漂う…てゆーか昆虫キッズのいつだってのイメージのまんまだけど。そんな感じ。

 

・出かけるって女たちに言ってくるよ

これは1番わかりやすいな。結婚なんてするもんじゃないって感が伝わってくるし、オチも分かりやすい。この人からはミヒャエル・ハネケのような雰囲気を感じる。日常の延長線上の狂気っていうかね。男友達の感じも読者は気にいると思うな。そうそう、この作者は男友達って物に特別な感情があるよな。大切で軽蔑してる感じ。

・大聖堂

これは何となく気に入ってる。主人公の夫のリアクションとかに物凄くリアリティを感じる。嫁がなんか訳アリの友達の盲目のおっさんを家に連れてくる話。めっちゃ迷惑やねんけど、もうこうなったらこのオッサンでちょっとは楽しむかっていう悪戯心をくすぐられる。なんつーか蜂の巣をつつくような話。そういう微妙で珍妙な空間がリアルに味わえて面白い。

・菓子袋

これは自分のオトンが浮気して離婚して…その時の話を親父から聞かされるという…。まぁ男は幾つになってもダメやという話。

 

・あなたお医者さま?

これは何かお洒落やね。映画の導入みたい。男のスケベ心を刺激する話。

 

・僕が電話をかけている場所

アルコール依存症を治す施設の話。人間は元々壊れていてそれでもまともに暮らしていかなきゃいけない。その前提を受け入れられるかっていうテーマを感じるね。アメリカではアルコール依存症って日本より大きな問題なんだよね。いちばん爽やかな気配がするオチ。

 

・足もとに流れる深い川

夫が友達と川に遊びに行ってそこで女性の死体を見つけ強姦殺人の嫌疑を掛けられて夫婦仲がギクシャクするって話。これは女性特有の共感性を描いているのだと思う。嫁はこの被害者に同情しちゃって、例えば本当に夫が何もしていなくても彼女の亡骸を放置し続けた事が許せないし、それは最早レイプ殺人犯と同じって感じだよね。論理的に飛躍してるけどフェミニズムってそんなもんなんだろう。生理現象だから仕方ないって話ね。

 

・何もかもが彼にくっついていた

まぁよく分からんけど、もうこの男は嫁とは一緒には暮らしていないというのは分かる。唯一切ない気持ちが湧いてくる、ベンジーの作る歌みたいな話だね。面白かった。